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  • タグチ・アートコレクション 球体のパレット


先日、札幌芸術の森美術館で開催中の「タグチ・アートコレクション 球体のパレット」に行った。
収集家のコレクション展は幅広く様々な作品が一度に見られるので得した気分になる。
特に私は現代美術が好きなので楽しかった。



村上隆名和晃平草間彌生奈良美智といった超有名作家の作品、先日見に行った塩田千春やシガーロスのジャケット写真でおなじみのライアン・マッギンレー、オノヨーコなんかの作品もあった。

 


そんな中でとても気に入った作品がハンス・オプ・デ・ビーク「Staging Silence(2)」という作品。
展示室が奥まっているからなのか、私が見ているときに誰一人入ってこなかったのもよかった。

固定カメラの前で様々なオブジェクトが一切の無駄な動き無く並べられていき様々な風景が立ちのぼり消えていくモノクロームの映像が20分ぐらい続くという作品なのだが、全然飽きなくてずーっと見ていられた。
特にペットボトルを摩天楼に見立てたところと角砂糖で作られた都市が黒いお湯(?)でドロドロに溶かされるところがよかった。

作品はYoutubeで見ることができる。

 


Hans Op de Beeck. Staging Silence (2), 2013.


私はそれまでハンス・オプ・デ・ビークの作品を知らなかったのだが(もしかしたらどこかで見ているのかもしれないが)、ほかの作品も調べてみるととても好きな感じのものが多かった。

 

www.hansopdebeeck.com


その多くが灰色のどこか寂しいような、現実と夢のあわいのような作品であり、見ていてとても引き込まれてしまう。

十和田市現代美術館に常設されている「Location(5)」という作品はすべての調度品が黒一色のレストランの窓からどこまでも続く車のいないハイウェイを眺めるというものだが、もちろんそれは視覚効果によるものであり、実際は幅10mしか奥行はない。
この作品めちゃくちゃよいので一度本物を見に行ってみたいものだ。
十和田まで行くの大変だけど。

 

towadaartcenter.com

他に気になったものとしては、真っ二つの牛でおなじみ、ダミアン・ハーストの「トリエタノールアミン」という作品。

ちなみに私は真っ二つの牛の作品の実物を以前見たことがある。
全然関係ないけど、かはくでやってた深海展のサメのホルマリン漬け、ダミアン・ハーストみがある。

 

↓昨年かはくで撮影したもの。


ダミアン・ハースト、真っ二つの牛の人という印象しかなかったので、「spot painting」のシリーズは今回初めて知った。

キャンバスに描かれたカラフルなドットがかわいらしい作品。
化学薬品会社のカタログから選んだ薬品名をタイトルに付け、製薬会社の「口に入れるときにためらわないような親しみやすい色を薬に用いる」ということなどもこの作品を読み解くうえで重要なファクターになる。

作品タイトルの「トリエタノールアミン」は化学兵器のびらん剤「ナイトロジェンマスタード」に用いられるため化学兵器禁止条約のShedule 3,part Bリストに含まれているのだが、ナイトロジェンマスタードはその細胞毒性に着目し使用された最初の抗がん剤だったそうだ。

それらを踏まえこのポップでカラフルなかわいらしい作品を見ると、まったく印象が変わってこないだろうか。

この作品は写真不可なので画像はない。
以下のリンク先のキャプチャ画像で出てきてるやつがそれ。

 

www.tokyoartbeat.com
昨日、草野マサムネのラジオで最後に流していた大貫妙子の「くすりをたくさん」って曲がなんとなくこの作品を彷彿とさせると思った。

大貫妙子 くすりをたくさん 歌詞 - 歌ネット


一見ポップな中に批評性を内包し表現するのはアートの本質の一つだ。
言いようのない気持ち悪さや違和感を形にする。
芸術は「面白い」「きれい」「わかりやすい」というだけのものではなく、それに触れたものの視点や感覚を拡張する装置として機能する。

注文の多い注文書 (ちくま文庫)

ハードカバーで出たとき「小川洋子クラフト・エヴィング商會!なんてすごい組み合わせなんだ!」と思ったが、あまりにも金のない時期だったので買っていなかった。
金がないことにより様々な機会が損失されるので貧乏はよくない。

文庫になっていたので買った。
金があるのは素晴らしい。

この本は川端康成村上春樹サリンジャーボリス・ヴィアンetc…の様々な小説にまつわるアイテムについてクラフト・エヴィング商會のもとに依頼が届き(小川洋子が書いている)、それに対してクラフト・エヴィング商會が注文された「なんらかの品」を納品するという往復書簡のような体で構成されている。
いうなれば、屏風のトラを捕まえろという一休さんのような、、、

それらは当然『存在しないもの』なのだが、そのむちゃくちゃな要求にどのようなものを納品するのかという創作バトルのような小説だ。フリースタイルダンジョンだ。

そんな中でも、ボリス・ヴィアン「日々の泡(うたかたの日々)」に出てくるあの有名な“肺に咲く蓮の花”の種のエピソードはよかった。
元の話が好きというのもあるが、なんと、この話には小川洋子の「薬指の標本」に出てくる弟子丸氏の親戚(?)が出てくる。詳細までは語られていないのだが『弟子丸一族は標本を扱う家系』という設定を知ることができただけで興奮している。こういうスピンオフ的な設定がぶち込まれているとヲタク興奮しちゃう。

それにしても、最後の内田百閒「冥途」にまつわるエピソードは『本』というメディアを最大限に活かした驚愕の仕掛けが施されている。
これは読んでてゾッとさせられた。すごい。

それぞれの注文品のオブジェクトの写真も掲載されているのだが、どれも心をくすぐられる品々なのでヴィジュアルブックとしての楽しみ方もできる。

 

  • 動物に変えられる話

 

図書館レファレンスのアカウントがpostしていた「ドイツネズミ」について調べたところ、マスクラットというのが正式名らしく、画像検索したらちょくちょく帽子やコートの画像が混ざっていてなんだかいたたまれない気持ちになった。

 

https://upload.wikimedia.org/wikipedia/commons/2/27/Ondatra_zibethicus_FWS.jpg

マスクラット - Wikipedia


検索して出てきたほとんどの画像はドブネズミみたいだが、国立環境研究所のサイトのはく製の画像はかわいらしいので、ちゃんと毛並みを整えてキレイキレイしてあげたらかわいらしい感じになるのかもしれない。

https://www.nies.go.jp/biodiversity/invasive/DB/image/photo/10090_b.jpg

マスクラット / 国立環境研究所 侵入生物DB



ファー付きのアイテムは冬に取り入れたくなるけれど、本物の生き物から剥いだ毛皮を身に着けるのは気が引ける。
昔、世にも奇妙な物語で毛皮のコートを着たら動物になってしまうという話(「毛皮が脱げない」)があり、その描写がとてもおそろしかったので私は毛皮のコートを着ようという気が全然起こらない。

動物になってしまうといえば、山岸涼子の漫画で山奥の洋館に行った大学生が次々と館の主によって動物に変えられてしまうという話があった。「キルケー」って話。
キルケーというのはギリシャ神話に出てくる魔女で気に入った人間を攫ってきて飽きたら動物に変えて家畜化するそうな。


「ロブスター」という映画も結婚しない人間を動物に変えてしまう機械にブチ込まれるという話だが、変わる動物を選べるだけ良心的か(タイトルの「ロブスター」は主人公がなりたい動物)。
変えられるなら私はクラゲがいいな。
でもカワハギに食べられちゃうか。集団で襲ってくるから奴ら。
あとウミガメもクラゲ食う。

どれもおそらく人間の記憶を保持したまま動物に変えられる話だと思うのだが、人間の感覚で動物になったところで適応できずにすぐ死んじゃうんだろうな。

  • 失せ物が見つかった話


先日、落とし物をした話をしたが、今日その店に行ったところ、店主さんが「もしかしてお客さんのですか?」と私が落とした栞を出してくれた。
私の後に出たお客さんが拾って届けてくれたらしい。
拾ってくれたお客さんにも取っておいてくれた店主さんにも感謝しかない。
世の中やさしい人がいるものだ。

今年はそうした見ず知らずの人にやさしくされることが多い。
私も心に余裕があるときは人にやさしくしようと思った。

落とした栞は本から逃げ出しやすいという構造的欠陥(三日月のパーツが引っかかって本から抜ける)が発覚したので解体して別の何かにしようと思う。