191105

三題噺

  • 【お題】磯、一年、店舗

磯辺焼きをください」
あらゆる磯辺焼きを食べ歩いてもう一年になる。
磯辺焼きを出す店は意外と無くそのため磯辺焼きのありそうな店には片っ端から入る。
餅を焼き醤油をつけ海苔を巻いたシンプルな食べ物である磯辺焼きはそのシンプルさ故に店舗によって味が大きく異なる。
磯辺焼きになります」
店員が持ってきた磯辺焼きを箸で持ち上げ口に運ぶとそれは餅ではなくはんぺんだった。マジか。
 
  •  【お題】砂漠、肉屋、看板

 
飛行機が落ち、幸い命に別状はなく無傷だったがこれを『幸い』と呼べるのだろうか。
落ちたのは砂漠の真ん中だ。
食べ物も尽き昼夜の寒暖差が体力を奪い続ける。
意識が朦朧としてきたとき、目の前に肉屋の看板が見えた。
こんな場所に肉屋があるわけもないが藁にも縋るような思いで私は肉屋のドアを叩いた。
「すみません!誰か!」
するとドアから巨大な手が現れて私の身体を中へと引きずり込んだ。
 
  •  【お題】星影、言葉、目印

星影というのは、星の光のことを指す言葉だそうだ。
なぜ星光ではないのだろう。
それならば月の欠けた部分などが真の意味での星影と言える。
或いは太陽の影、夜そのものが星影か。
星影という言葉から受ける印象はネガフィルムの夜空。
真っ白な空に黒くぽつぽつと落ちる影。
それはまるで今目の前にしている顔に浮かぶそばかすに似ている。
「え?顔になんかついてる?」
「星影」
「寝ぼけてるの?」