幸福王子を観に行った話

 

 

いい加減に幸福王子の感想を書きたいのだが、思い入れが強すぎてなかなかまとまらない。
あの素晴らしい舞台をどんな言葉で書き表しても陳腐なものにしかならない気がして。
これはただただ舞台を観に行ったヲタクの話。

 

 
観劇後帰ってきてから本髙克樹さんにファンレターを書いた。
「めちゃめちゃよかった!」というのを本人に伝えずにはいられないという思いに駆られたからだ。10歳以上年下のアイドルにファンレター書くことなんかないぞ普通。
それを差し引いても高校の数学で4点取った女が数学全国模試1位の早稲田の現役理系大学生に手紙を書くなんて恐れ多すぎるだろ、、、しかも卒論書いてるであろうクソ忙しい期間に、、、
 
そうこうしている間に舞台は千秋楽を無事に向かえ幕を下ろした。
私は初日と2日目にそれぞれ1回ずつしか入っていないので、この舞台が最終的にどのような仕上がりになったのか見ていない。
 
普段であればツアーなども自分が入った公演以外は自分が入っていないのでその後の公演については特に気に留めることもないのだが、私はこの舞台の上演期間中「今日も舞台上であの物語が展開しているのだ」と考えて実際に行って観ているわけでもないのに私が会社でコピーをしたり検討会資料を作ったりPDFをWord化したりしている今この瞬間にもこの世界では幸福王子が演じられているのだ。と、なんだかちょっとだけうれしくなったりしていた。
なので千秋楽の上演が終わった瞬間、とてもとても寂しかった。
もう王子にもツバメにも会えないのだなぁと。
 
舞台演劇は上演されている間しかこの世に現出しない表現だ。
私はライブには結構足を運ぶのだが、演劇は数えるほどしかない。
それは地理的条件やチケット倍率など様々な要因があるのでよっぽど「観に行きたい」という強い思いがなければ北海道から東京までわざわざ舞台を観に行ったりはしない。
 
私の幸福王子に対する観劇前の期待値の高さについては以前独立した記事を書いているのでわざわざ改めては書かない。
 

perfect-blue-screen.hatenablog.com


 
実際に舞台を観た感想は一生懸命ない語彙を捻り出して主演の早稲田の理系大学生に送り付けた手紙を書く際にまとめたものがあるので要点だけ書き出そうと思う。
っていうかむしろ手紙こそ文字数が限られているのでこっちに手紙に書いてないことも長々ダラダラ書くけど。
 


一般的に「幸福な王子」のテーマだと思われている「自己犠牲」を「自分の正しさを貫く」という解釈で再構築している。
これが個人的にはとても良かった。
王子が町の貧しい人々に宝石やら金箔やらを施すっていうのは別に「純粋な善意から他者を思う美しい自己犠牲」なんかではなく完全に自分のエゴであり、王子自身もそれをわかっている。
 
マッチ売りの少女にサファイアを与える場面で、少女はサファイアを「綺麗なガラス玉」だと思いその金銭的価値を理解できていなかったことにツバメは「目を失ってまですることなのか」と怒る。
しかし視力を失うことでもう民衆の醜さや悲しみや苦しみを見ずに済むことにどこか清々しさすら覚えている。
王子は「与える」ことが目的であり、与えた結果についてはむしろ無頓着だ。
 
そして、舞台で何度も出てくる「ゼロサム理論」。
誰かの幸せは誰かの不幸せ。
宇多田ヒカルの「誰かの願いが叶うころ」という私の大好きな歌があるのだがこれはまさにゼロサム理論の歌ですね。

 

誰かの願いが叶うころ あの子が泣いてるよ
みんなの願いは同時には叶わない

youtu.be
 
500年同じ場所から動けずに世の中を見続けてきた王子は世の中のそうした残酷な仕組みを嫌という程目の当たりにしてきているため、実際は自分が宝石やら金箔やら与えたところでそれが一時しのぎにしかならないことはわかりきっている。
 
美しい宝石や金箔は「幸福の象徴」としての王子の価値そのものであると同時に、王子をそこに縛り付けるもので、それを引きはがしていくことはそこからの解放であると同時に王子の存在価値を無くすこと、つまり死を意味する。
 
だからこれは「緩やかな自殺」だったのではないか。
このなんの救いもない世界から逃れるために。
 
そう考えるとツバメにそれを手伝わせた王子はなかなかヤベぇ奴だ。
 
それに対してツバメはどこまでも無邪気にまっすぐに王子の頼みを聞いてやるわけだが、その矛盾に気付きながらも王子がそれを望む故に最期までそれを叶えていく。王子を愛しているので。
 
王子はツバメを単に利用しようとしただけだったのかというと多分そうでもなく、初めはそうだったのかもしれないが、ツバメとのやり取りの中で世の残酷な理に囚われない不変の大切な「何か」に気付いたのではないだろうか。
だからツバメが死んだとき、王子の鉛の心臓は真っ二つに割れてしまった。

この劇は王子の「バカかお前らは!!」というセリフから始まり、本編最後も同じ「バカかお前らは!!」というセリフで終わる。

しかしこのセリフの意味合いは冒頭と最後でまったく聴こえ方が変わる。

ツバメと出会ったことにより王子は「理の外」を知ったが故に、死して尚「持つ者持たざる者」「奪い奪われる者」というテーブルの上に載せられることに心の底から怒りと悔しさを覚えたのではなかろうか。
愛ですら他者にその価値を判断されてしまうその理不尽さに。

王子は一貫してワガママで自己中だけれど、「自分の意志を貫く」ことの方向性がツバメによって変えられた。
ツバメもまた、王子と出会うことにより見えている世界が変わった。

幸福の価値とは他者によって与えられることではなく、どんな形であれ自身の中から見出し、信じ、掴み取っていくものなのかもしれない。



ロックリーディングは朗読劇にリアルタイムでバンドの劇判が付く。

その日その日で即興だったりもするのでライブ感がある。

ライブの現場に全く足を運べていないという状況もあり、ステージで実際に音が鳴っているのを目の当たりにして『この感覚』がなんだか久しぶりでちょっと泣きそうになってしまった。

 

ステージ前方には水がたくさん置かれた(ペットボトルの種類がいっぱい!)朗読台。

ステージ中央には王子の像(概念)

ステージ広報にはバンドセット。


朗読劇を見るのがそもそも初めてだった。

直近でステージ全体を使ったダンスと歌のあるミュージカルであるハウ・トゥー・サクシードを見ていたので、朗読劇をどういうテンションで観劇するものなのだろうかと思った。寝ちゃったらどうしようぐらいのことは思っていた。全く杞憂だった。

 

克樹、こんぴはもちろん、キャストの豊かな表現力とバンドの活き活きとした劇判により全く飽きるどころか物語にどんどん惹き込まれていった。

 

劇中、歌もあるのでミュージカル要素もあるといえばある。

いやぁ、、、カッコよかった、、、

まぁ、メインキャストなんだから当然といえば当然なのだが、克樹もこんぴもソロ曲もあったし、勿論2人で歌う曲もあって、歌がうめぇ~~~~~ってなった。

普段は鍵盤とギターだけど、この2人、十分メインを張れるだけの実力も風格も持ち合わせている。

 

で、本当に本髙克樹さんの演技の表現力がとんでもなく、長い年月死ねずにいたが故の諦観、何も出来ない自分と何も変わらない世界への怒りや悲しみ、ツバメと出会ったことで変わっていくという複雑な内面を繊細に演じ分けていたのがとても印象的だった。
とても外部舞台2度目の初主演とは思えないほどの表現力。

普段、島動画やYoutubeなどではぽやぽやしていて飯ばかり食っているイメージだが、舞台上の彼はとてもぽやぽや食いしんボーイと同一人物とは思えないほど、高貴で感情的でときに口が悪くハキハキとしていた。
度肝を抜かれた。

 

特にラストに向かうまでの抑揚を抑えた哀しみを湛えたモノローグ、傲慢で思い上がった市長や議員、そして神の演じ分けが圧巻だった。

 

あと、一日目と二日目に見たときに演技のニュアンスを若干変えてきたりしてて、これは2回入れたから気付けたことではあるんだけど、こんなふうに日々演技をブラッシュアップしながら舞台をどんどん進化させていくのだな。と思って、それを感じることができたのはとてもよかった。

 

シリアスな王子とは対照的に、こんぴちゃんのツバメはとてもかわいらしく、椅子でくるくる回ったり難しいことを考えると眠くなってしまうソロ曲を歌ったりするのでもうあれは全人類見たら好きになっちゃうやつですね。邪気が無い。

 

あと2人とも顔が本当に綺麗。

あんなに顔面が美しい人間がいるのかよってなった。

いや、、、初めてだったから。本物の本髙克樹さんと今野大輝さん見たのが。

美しすぎてびっくりしちゃった。

 

そして、この大変な状況の中でこのカロリーの高い演目を一度も誰一人欠くことなく全公演やり通したというのはすごいことだと思う。

本当にお疲れ様でした。

 

私がこの先、こんなふうに彼らがステージに立つ姿を見ることができるのだろうかとどうしても考えてしまう。

私が彼らのことをずっと好きでいられる保証はどこにもなく、彼らがステージに立ち続ける保証もない。

景気のいい話をすれば今後めちゃめちゃ人気が出て今回のようなキャパでの舞台を見るどころかチケットを確保することすら困難になることもあるかもしれない。

メインを張って素晴らしい脚本で素晴らしいキャストで、みたいなタイミングだっていつもいつもそうとは限らない。

 

だからこそ、今回奇跡のような巡りあわせのこんな素晴らしい作品を観ることができたことがとても幸せだった。

願わくば、今後も彼らにそんな仕事が来てほしいと思わずにはいられない。

そしたらがんばって観に行くから。

 

 

最後に観劇直前直後の勢いしかないひどいTweetをまとめておこう。

 

24日夜公演に関するTweet

 

25日昼公演に関するTweet